戸建フルリフォームなら「増改築.com®」TOP耐震補強リフォーム工事 完全ガイド【81-00住宅の落とし穴】「新耐震なのに倒壊」の衝撃。過渡期の家に潜む“バランス”と“結束力”の罠 

更新日:2025/08/4

耐震補強リフォーム工事完全ガイド:第2部:築年数別の最適治療計画 ~“三位一体”を取り戻す構造外科手術~⑨

【81-00住宅の落とし穴】「新耐震なのに倒壊」の衝撃。過渡期の家に潜む“バランス”と“結束力”の罠

性能向上リノベーション(耐震編)

【導入】プロローグ:あなたの「安心」は、本物ですか?

 

ここでの概要:

 施主の多くが抱いているであろう「新耐震基準だから大丈夫」という安心感に、専門家として、敬意を払いつつも、静かに、しかし鋭く問いかけます。「81-00住宅」という、私たちが特別な名前で呼ぶ、この過渡期の家が持つ、特有の“落とし穴”の存在を予告し、本編への強い探求心と、健全な危機意識を喚起します。

 

はじめに:「新耐震基準」という言葉に潜む、甘い罠

 

ここでのポイント:500棟以上の木造住宅の再生に携わってきた専門家として、「新耐震基準」という言葉が持つ一般的なイメージに潜む、危険な“甘い罠”について警鐘を鳴らします。この言葉が、必ずしも絶対的な安全を意味するものではないという、プロだけが知る不都合な真実から、この物語を始めます。

 

 もし、あなたのお住まいが1981年(昭和56年)以降に建てられた家であるならば、きっと、こうお考えのことでしょう。

「我が家は、国が定めた『新耐震基準』を満たしている。だから、地震が来ても、ひとまずは安心だ」と。

そのお気持ちは、ご家族との穏やかな暮らしを守る上で、何よりも大切なものです。

そして、その安心感は、決して間違いではありません。1981年の法改正によって、日本の木造住宅の耐震性が、それ以前とは比較にならないほど、飛躍的に向上したことは、紛れもない事実なのですから。

しかし、もし、その「新耐震基準」という、あまりにも心地よく、そして頼もしく響く言葉そのものに、あなたの家の未来を左右しかねない、巧妙で“甘い罠”が潜んでいるとしたら、どうでしょうか。

500棟以上の古い木造住宅の骨格と向き合い、その声なき声に耳を澄ませてきた我々だからこそ、あなたにお伝えしなければならない、極めて重要な真実があります。それは、「新耐震基準」という言葉が、必ずしも、今日の絶対的な安全を保証するものではないという、厳しい現実です。

これからお話しするのは、あなたのその大切な「安心」が、本当に揺るぎない、本物の安心なのか。それとも、時代の変化の中で、少しずつ綻び始めている、脆い幻想なのか。その本質を、共に見つめ直すための、重要な対話です。耐震リフォームのきっかけは、時に、こうした自らの「常識」を疑うことから始まるのです。

 

なぜ、専門家は「81-00住宅」という特別な名前で、この時代を区別するのか

 

ここでのポイント: 私たち専門家が、なぜ1981年から2000年までの住宅を、特別な「81-00住宅」という名前で区別して呼ぶのか。その理由を解説します。それは、この過渡期に建てられた住宅が、旧耐震とも、現代の住宅とも異なる、特有の構造的な弱点を抱えているからです。

 

あなたは、「81-00(ハチイチゼロゼロ)住宅」という言葉を、お聞きになったことがあるでしょうか。

おそらく、ほとんどの方が、初めて耳にする言葉だと思います。

これは、建築基準法に定められた正式な用語ではありません。私たちのような、長年、木造住宅の性能向上リノベーションに携わってきた専門家が、ある特定の時代に建てられた家々に対して、敬意と、そして、ある種の警戒心を込めて用いる、特別な呼称なのです。

「81-00住宅」とは、1981年の「新耐震基準」の誕生から、その弱点を克服するための、さらなる法改正が行われた2000年までの、約20年間に建てられた木造住宅を指します。なぜ、私たちは、この時代だけを、わざわざ区別して呼ぶのでしょうか。

それは、この「81-00住宅」こそが、旧耐震の脆弱性を克服しようとしながらも、まだ現代の耐震思想には到達できていない、まさに“過渡期”の産物であり、そのアンバランスさゆえに、専門家の目から見れば、極めて特徴的で、そして見過ごすことのできない「隠れた弱点」を、構造的に内包しているからです。

多くの方が「安心」と信じている新耐震基準が、実は弱い側面を持っているという現実。その核心が、この8100住宅という言葉には、込められています。1990年代の住宅の耐震性**を考える上で、この視点は絶対に欠かせません。

 

 

これからお話しするのは、あなたの家の“隠れた弱点”を暴き出す、プロの臨床報告です

 

ここでのポイント: これから語られる内容が、単なる一般論ではなく、500棟以上の現場経験に基づいた、具体的で信頼性の高い「臨床報告」であることを宣言します。この時代特有の弱点である「バランス(偏心率)」と「結束力(耐震金物 不足)」というキーワードを提示し、読者の探求心を刺激します。

 

この章で、私がお話しすること。それは、教科書に書かれているような、ありきたりの解説ではありません。それは、私たちが、これまで500棟以上の81-00住宅の壁を剥がし、その骨格と向き合う中で、繰り返し目の当たりにしてきた、偽らざる「臨床報告」です。

なぜ、壁の量は増えたはずなのに、阪神・淡路大震災や熊本地震では、多くの「新耐震のはず」の家が、倒壊・大破してしまったのか。その答えは、この時代の家が抱える、二つの、致命的な構造的アンバランスにあります。

一つは、家の「体幹」とも言える、「バランス(偏心率)」の欠如。そして、もう一つが、家の骨格を繋ぎとめる「靭帯」の役割を果たす、「結束力(耐震金物の不足)」です。

これから、私たちは、この二つの“隠れた弱点”が、なぜ、どのようにして生まれてしまったのか、その歴史的背景と、技術的なメカニズムを、一つひとつ、丁寧に解き明かしていきます。これは、あなたの家の耐震補強を考える上で、絶対に避けては通れない、本質的な議論です。

 

 

この章を読み終える頃、あなたは、ご自身が拠り所としてきた「新耐震基準だから安心」という言葉を、全く新しい、そして、より深く、より本質的な視点から、見つめ直すことになっているはずです。

そして、ご自宅の間取り図を眺めながら、「もしかしたら、我が家にも、あの“バランス”の弱点が潜んでいるかもしれない」「あの“結束力”の不足は、どうなっているのだろうか」と、専門家と同じ「眼」で、ご自身の家の耐震性について、思考を巡らせ始めていることでしょう。

その、健全な疑問と、探求心こそが、あなたの家が抱える耐震への不安を、本当の意味で解消するための、最も確かな第一歩なのです。さあ、過渡期の家に潜む、知られざる“落とし穴”への旅を、始めましょう。

 

第1章:「壁の量」だけが増えた、不完全な進化 ~なぜ、新耐震は完璧ではなかったのか~

 

章の概要: 1981年に誕生した「新耐震基準」が、それ以前の旧耐震基準と比べて、いかに画期的なものであったかを認めつつも、なぜそれが「不完全な進化」であったのか、その歴史的背景と技術的な限界を解説します。阪神・淡路大震災という悲劇が、その不完全さをいかにして白日の下に晒したのかを、具体的に語ります。

 

1-1. 1981年「新耐震基準」の誕生。それは、何を守るための基準だったのか

 

ここでのポイント:

 1981年の「新耐震基準」の功績と、その限界を明確に定義します。「壁の量」を増やし、多くの命を救った功績を認めつつも、その目的はあくまで「倒壊しない」ことであり、「損傷せず住み続けられる」ことではなかったという、新耐震基準が弱いと言われる、その本質的な理由を解説します。

 

「私の家は、昭和56年の新耐震基準ができてから建てられた、比較的新しい家です」。

リフォームのご相談の場で、お客様からこの言葉を伺う時、私はまず、その言葉に込められた、長年の「安心感」に、深く敬意を表します。そして、その安心感は、決して間違いではありません。1978年の宮城県沖地震という、都市を襲った地震の甚大な被害と、多くの犠牲の教訓から生まれた1981年の建築基準法大改正は、日本の木造住宅の歴史において、まさに「革命」とも呼べる、偉大な一歩でした。

それまでの「旧耐震基準」が、震度5強程度の揺れに対して、なんとか倒壊を免れる、というレベルを目標としていたのに対し、この「新耐震基準」は、震度6強から7という、極めて稀に発生する巨大地震に対しても、「人命の保護」、すなわち「倒壊・崩壊しないこと」を、明確な目標として掲げたのです。この改正により、木造住宅に求められる耐力壁の量は、それ以前とは比較にならないほど大幅に増強されました。事実、その後の地震においても、この基準によって多くの命が救われたことは、紛れもない事実です。1990年代の住宅の耐震性は、旧耐震の時代とは、全く異なる次元へと、確かに「進化」を遂げたのです。

しかし、500棟以上の、あらゆる時代の木造住宅の“素顔”と向き合ってきた専門家として、私は、この「進化」が、まだ「不完全」であったという、厳しい現実についてもお話しなければなりません。

なぜなら、当時の基準が守ろうとしたものの、本質的な優先順位は、あくまで「人命の保護」、つまり、「建物に損傷は残るかもしれないが、少なくとも一瞬で押し潰されるような倒壊は防ぎ、中にいる人が避難する時間を確保する」という点にあったからです。

「地震の後も、安心して、大きな補修をすることなく住み続けられること」や、「大切な資産としての家の価値を維持すること」。そこまでは、当時の基準では、まだ十分に射程に入っていなかったのです。

新耐震基準が、現代の私たちの目から見て弱い側面を持つと言われる、その本質的な理由が、ここにあります。1990年代の住宅が持つ、当時の「最高」の基準と、現代の私たちが求める「不十分」との間には、実は、大きなギャップが存在するのです。

そして、そのギャップが、最も悲劇的な形で露呈してしまったのが、1995年の、あの阪神・淡路大震災でした。この時代の家の補強を考えるとき、この出発点の理解は、絶対に不可欠です。

 

1-2. 阪神・淡路大震災(1995年)が暴いた、「壁の量」だけでは防げない「ホゾ抜け」の恐怖

ここでのポイント:

 阪神・淡路大震災で、多くの「新耐震のはず」の家が倒壊した最大の原因、「ホゾ抜け」のメカニズムを解説します。「強い壁」が生み出す「引き抜き力」という新たな敵の出現を明らかにすることで、新耐震基準が弱いという事実を、具体的な技術論で裏付けます。

 

 1995年1月17日、早朝。神戸の街を襲った、最大震度7の激しい揺れは、6,434人もの尊い命を奪いました。被害の多くは、旧耐震基準の古い木造住宅に集中しましたが、専門家たちが衝撃を受けたのは、「新耐震基準で建てられたはずの家」ですら、数多くが倒壊・大破していたという事実でした。

なぜか。なぜ、壁の量を増やし、頑丈になったはずの家が、かくも無力に崩れ去ってしまったのか。

その最大の原因の一つが、「ホゾ抜け」と呼ばれる、柱が土台や梁から引き抜かれてしまう現象でした。家の骨格が、その関節部分から、いとも簡単にバラバラになってしまうのです。そして、その背景には、「壁の強化」が生み出した、一つの皮肉な物理現象がありました。

 壁が強固になったことで、地震の揺れを受けると、建物全体が、まるで一つの硬い箱のように、大きく揺さぶられます。その際、壁の両端にある柱には、地面から引き抜かれようとする、凄まじい「引き抜き力」が発生します。テコの原理を想像していただければ、分かりやすいでしょう。壁が強ければ強いほど、この引き抜き力は、より強大になります。

しかし、当時の「81-00住宅」の多くは、この強烈な引き抜き力に対する備えが、全くと言っていいほど、なされていませんでした。柱と土台の接合は、旧耐震時代と何ら変わらない、木材同士を組み合わせた「ほぞ差し」と、数本の釘で留められているだけ。あるいは、申し訳程度のかど金物が付いている程度です。

壁がその性能を発揮し、地震の力に抵抗しようとするまさにその瞬間に、その力を支えるべき柱が足元からすっぽ抜けてしまえば、家はひとたまりもありません。この阪神・淡路大震災の悲劇的な教訓は、「家の強さは、壁の量だけでは決まらない。その力を確実に骨格全体で受け止めるための、強靭な結束力(接合部)がなければ、全く意味をなさない」という、極めて重要な真実を、私たちに突きつけたのです。

耐震金物の不足こそが、この時代の家の、アキレス腱だったのです。新耐震基準が弱いと言われる最大の理由は、まさにここにあります。1990年代の住宅の耐震性は、この「結束力」という視点なくしては、決して語ることはできません。偏心率による耐震バランスの悪さと、この結束力の欠如が、多くの悲劇を生んだのです。

 

 

1-3. なぜ、木造3階建てだけが、当時から金物で補強されていたのか?

ここでのポイント:

同じ時代でも、被害が少なかった木造3階建ての秘密、「構造計算」の有無を明らかにします。これにより、科学的な検証の重要性を訴え、8100住宅の補強には、専門家による客観的な計算が不可欠であることを、読者に強く印象付けます。

 

ここで、一つの興味深い事実をご紹介します。阪神・淡路大震災において、同じ「81-00住宅」の時代に建てられた家でも、木造3階建ての住宅の被害は、2階建てに比べて、比較的軽微であった、というデータがあります。その理由は何だったのでしょうか。なぜ、3階建ての家は、より多くの命を守ることができたのでしょうか。

答えは、「構造計算」の有無にあります。当時の法律では、一般的な木造2階建て住宅(4号建築物)は、構造計算が義務付けられておらず、簡易的な仕様規定(壁量計算など)を満たせば良いとされていました。一方で、木造3階建て住宅は、その重さや複雑さから、一棟一棟、専門家による厳密な「構造計算」が義務付けられていました。

そして、この構造計算を行うと、地震時に柱にどれくらいの引き抜き力がかかるかが、具体的な数値として算出されます。その数値に基づいて、引き抜きに耐えうる「ホールダウン金物」などの耐震金物を設置することが、当時の3階建て住宅では、すでに常識となっていたのです。

つまり、同じ時代に建てられていても、構造計算という「科学の眼」を通すか否かで、家の安全性は、全く異なるレベルにあったのです。この事実は、耐震補強リフォーム工事を行う上で、いかに客観的な計算が重要であるか、そして、その計算に基づいて適切な8100住宅の補強計画を立てることの必要性を、私たちに雄弁に物語っています。

そして、この阪神・淡路大震災のあまりにも大きな犠牲と、木造3階建て住宅が示した希望の光という、二つの教訓が、後の2000年基準、すなわち、すべての木造住宅に「科学的な根拠に基づく結束力」を求める、新しい時代の幕開けへと、繋がっていくのです。

 

 

第2章:81-00住宅が抱える、2つの構造的アンバランス

章の概要:

 

この章は、この記事の核心です。「81-00住宅」が構造的に抱える、二つの致命的な弱点、「バランスの欠如(偏心)」と「結束力の欠如(金物不足)」を、500棟以上の現場経験から得た具体的な事例と共に、徹底的に解説します。読者が、ご自身の家の間取り図を思い浮かべながら、そのリスクを“自分事”として理解できるようにします。

 

2-1. 弱点①【バランスの欠如】:流行の間取りが招いた「偏心」という名のねじれの力

ここでのポイント:

 81-00住宅が抱える第一の弱点、「バランスの悪さ」を、「偏心率」という指標を用いて具体的に解説します。「南に大きな窓、北に壁」という、当時の流行の間取りが、なぜ耐震性を著しく損なう「構造的欠陥」であるのか、そのメカニズムを明らかにします。

 

 

  1981年から2000年にかけての約20年間。それは、日本の住宅が、より明るく、より開放的な空間を求めて、間取りの自由度を大きく広げた時代でもありました。

リノベーション雑誌を彩る、光に満ちた広々としたLDK。その快適性の追求が、皮肉にも、家の耐震性という観点からは、大きな「構造的アンバランス」を生み出してしまったのです。その一つが、「バランスの欠如」、すなわち「偏心(へんしん)」の問題です。500棟以上の8100住宅の補強に携わってきた私たちが、常に最初にメスを入れる、この時代特有の病巣。なぜ、新耐震基準が弱いと言われるのか、その最大の理由の一つである、この危険なアンバランスの正体を、今から明らかにしていきましょう。

 

  2.1.1 「南に大きな窓、北に壁」。なぜ、あの時代の美しいリビングが、地震時に凶器と化すのか

 

 「あなたのお住まいは、南側に大きな窓が並んだ、日当たりの良いリビングダイニングがあり、北側に浴室やトイレといった水まわりがまとめられていませんか?」。

500棟以上の耐震診断を行ってきた経験から言えば、1990年代の住宅の、実に8割以上が、この間取りに該当します。

この、一見すると合理的で快適な間取り。これが、家の耐震性にとって、いかに危険な状態であったか。地震の揺れは、家全体を水平に揺さぶります。その揺れに抵抗するのが、筋交いなどで強化された「耐力壁」です。しかし、この耐力壁が、家の北側にばかり集中し、南側にはほとんど存在しない、という状態であったなら、どうなるでしょうか。

地震が来た時、家は、強い壁のある北側を軸にして、壁が少なく弱い南側が、鞭のように大きく振り回されてしまいます。家全体が、強烈な「ねじれ」の力に晒されるのです。この、家の「重さの中心(重心)」と「強さの中心(剛心)」のずれのことを、「偏心(へんしん)」と呼びます。そして、この偏心の度合いを示す「偏心率」という数値が、この時代の住宅の耐震性を評価する上で、極めて重要な指標となります。

どれだけ壁の「量」が新耐震基準を満たしていても、この耐震バランスが悪ければ、家は地震のエネルギーをうまく受け流すことができず、特定の場所に力が集中して、そこから破壊が始まってしまいます。あなたが憩いの場として愛している、光あふれるそのリビングが、実は、地震時には、家全体をねじる元凶となり、最も危険な場所と化すかもしれない。この、不都合な真実から、私たちは目を背けることはできません。

 

 2.1.2 あなたの家の耐震性を、偏心率という物差しで測る重要性

 

では、この危険な「ねじれ」のリスクは、どのようにして測ることができるのでしょうか。そのための、客観的で科学的な物差しが「偏心率」です。これは、建物の重心と剛心のずれの距離を、建物の幅で割って算出される数値で、この値が大きいほど、建物はねじれやすく、危険であると判断されます。

 2000年の建築基準法改正で、この偏心率を一定の数値以下に抑えることが、事実上、義務化されました。しかし、それ以前の「81-00住宅」の時代には、この規定が存在しなかったため、設計者の経験や感覚だけで、壁が配置されていたのです。

私たちが行う精密な耐震診断では、必ずこの偏心率を計算し、あなたの家がどれくらいの「ねじれやすさ」を抱えているのかを、明確な数値としてお示しします。そして、8100住宅の補強計画においては、この偏心率を、いかにして改善するか、という視点が、何よりも重要になります。壁を増設する際にも、ただ闇雲に増やすのではなく、この偏心率を改善できる、最も効果的な位置を、緻密な計算によって導き出すのです。1990年代の住宅の耐震性を正しく評価するためには、この偏心率という物差しが、絶対に不可欠なのです。

 

2.2 弱点②【結束力の欠如】:強くなった壁と、旧態依然とした接合部の致命的ギャップ

ここでのポイント:

81-00住宅が抱える第二の弱点、「結束力のなさ」を、「耐震金物の不足」という観点から解説します。強くなった壁が生み出す強烈な「引き抜き力」に対し、接合部が全く無防備であったという、この時代の致命的なギャップを明らかにします。

 

 「81-00住宅」が抱える、もう一つの、そしてより深刻なアンバランス。それが、「強くなった壁と、旧態依然とした接合部との、致命的なギャップ」、すなわち「結束力の欠如」です。壁という「筋肉」は、1981年の法改正で、確かに増強されました。しかし、その強大な筋肉を、骨格に繋ぎとめる「靭帯(じんたい)」、すなわち接合部が、旧耐震時代と何ら変わらない、あまりにも脆弱なまま、放置されてしまっていたのです。このアンバランスこそが、新耐震基準が弱いと言われる、もう一つの大きな理由であり、阪神・淡路大震災で、数多くの悲劇を引き起こす直接的な原因となりました。

 

  2.2.1 強くなった壁が、柱を引き抜こうとする。しかし、柱の足元は、釘数本だけ

 

 第1章でもお話ししたように、1981年の新耐震基準で、家に求められる耐力壁の量は、大幅に増えました。壁の強度は、確かに向上したのです。しかし、その強くなった壁が、地震の力を受け止めた時、その力は、壁の両端にある柱に、これまでとは比較にならないほど、凄まじい「引き抜き力」として伝わります。

ところが、この時代の多くの住宅では、その強烈な引き抜き力に対する備えが、全くと言っていいほど、なされていませんでした。柱と土台の接合部は、旧耐震時代と何ら変わらない、ほぞ差しと数本の釘で留められているだけ。あるいは、申し訳程度のかど金物が付いている程度です。

これは、例えるなら、最新の高性能エンジンを、何十年も前の古い車体に無理やり載せているようなものです。アクセルを踏み込んだ瞬間、エンジンの強大なパワーに車体が耐えきれず、空中分解してしまう。それと同じ悲劇が、阪神・淡路大震災で、数多くの「81-00住宅」を襲いました。この、あまりにも明白な耐震金物の不足は、この時代の住宅が構造的に抱える、避けられない宿命だったのです。

 

  2.2.2 阪神・淡路大震災で、多くの命を奪った「ホゾ抜け」の正体

 

 そして、この「結束力の欠如」が引き起こした、最も悲劇的な現象。それが、「ホゾ抜け」です。地震の強烈な引き抜き力によって、柱が土台や梁から、スポンと、まるで大根を引き抜くように、抜け落ちてしまう。家の骨格が、その関節部分から、いとも簡単にバラバラになってしまうのです。

壁がその性能を発揮し、地震の力に抵抗しようとするまさにその瞬間に、その力を支えるべき柱が、足元から、あるいは頭上から、すっぽ抜けてしまえば、家はひとたまりもありません。一瞬にして、1階部分が押し潰されるように倒壊し、多くの尊い命が、その下敷きとなりました。

この、あまりにも悲しい教訓は、私たちに、家の耐震性を考える上で、絶対に忘れてはならない真実を教えてくれました。それは、「家の強さは、壁の強さだけでは決まらない。その力を、確実に骨格全体で受け止めるための、強靭な結束力がなければ、全く意味をなさない」ということです。8100住宅の補強を考える上で、この耐震金物の不足を、いかにして解消するか。それが、生死を分ける、最も重要な治療となるのです。

 

2.3 あなたの家の“落とし穴”を見抜く、プロの着眼点

ここでのポイント:

 81-00住宅の耐震性を診断する際、私たちプロがどこに注目し、何を考えているのか、その思考のプロセスを公開します。「間取り図から危険なバランスを読み解く視点」や、「直下率」という一般には知られていない重要な指標を解説することで、専門家としての圧倒的な知見と診断能力の高さを示します。

 

ここまで、81-00住宅が抱える二つの構造的なアンバランスについて解説してきました。では、私たち専門家は、耐震診断において、これらの“落とし穴”を、具体的にどのように見つけ出していくのでしょうか。ここでは、そのプロの着眼点、いわば思考のプロセスを、少しだけお見せしたいと思います。これにより、家の耐震性を調べるという行為が、単なる現状確認ではなく、未来のリスクを予見し、防ぐための、極めて知的な作業であることを、ご理解いただけるはずです。

 

  2.3.1 耐震診断で81-00住宅を診る時、私たちがまず間取り図を睨みつける訳

 

お客様から81-00住宅の耐震診断のご依頼をいただいた際、私たちがまず最初に行うこと。それは、お客様からお預かりした間取り図を、まるで難解な暗号を解読するかのように、長時間、あらゆる角度から睨みつけることです。なぜなら、その一枚の紙の上に、その家が抱える「バランス」の弱点が、ほぼすべて描き出されているからです。

私たちは、まず、1階と2階の間取り図を重ね合わせ、家の四隅を基準に、耐力壁がどこに、どれくらいの量、配置されているかを、色鉛筆などを使って、丁寧にマーキングしていきます。すると、多くの場合、この時代の住宅の構造的な癖が、面白いように浮かび上がってきます。

南側は、大きな窓が並び、壁を示す色がほとんどない、真っ白なエリア。一方で、北側は、浴室やトイレ、階段などが集中し、壁を示す色が密集した、真っ黒なエリア。この色の偏りこそが、「偏心」の可視化です。私たちは、この図を見ながら、「この家は、地震が来た時、おそらく南東の角を起点にして、時計回りにねじれるように揺れるだろうな」「だとすれば、特にこの部分の柱の引き抜き力が、危険なレベルに達する可能性がある」といった、地震時の挙動を、頭の中でシミュレーションしていくのです。

この、間取り図から構造的な弱点を読み解く能力は、数多くの古い家の耐震性と向き合い、その崩壊のメカニズムを研究し続けてきた、経験豊富な専門家だけが持つ、特殊なスキルと言えるかもしれません。

 

  2.3.2 「直下率」という、この時代の設計で見過ごされがちな重要指標とは

 

そして、間取り図を読み解く上で、私たちが「偏心率」と同じくらい、あるいはそれ以上に重要視している、もう一つの指標があります。それが、「直下率(ちょっかりつ)」です。

これは、一般の方には、あまり馴染みのない言葉かもしれません。直下率とは、「2階の耐力壁や柱の真下に、1階の耐力壁や柱が、どれくらいの割合で存在しているか」を示す指標です。地震の力は、屋根から壁、そして基礎へと、上から下へスムーズに流れていくことで、建物全体で受け止められます。しかし、もし、2階の壁の真下に、1階の壁がなく、そこが広々としたリビング空間になっていたとしたら、どうなるでしょうか。2階が受け止めた巨大な地震のエネルギーは、行き場を失い、1階の特定の柱や梁に、破壊的な力として集中してしまうのです。

この直下率という概念は、2000年基準以降の設計では、当然のように考慮されます。しかし、「81-00住宅」の時代には、まだその重要性が十分に認識されておらず、デザインや間取りの自由度が優先されるあまり、この直下率が著しく低い、危険な設計の家が、数多く建てられてしまいました。

私たちは、1階と2階の図面を重ね合わせ、この「力の流れ」が、どこかで断絶していないか、無理な力がかかっている場所はないかを、一本一本の線の繋がりから、丁寧に読み解いていきます。この地道な作業こそが、2000年基準の弱点にも通じる、設計上の見えない欠陥を発見するための、不可欠なプロセスなのです。そして、耐震金物が不足しているこの時代の住宅では、こうした力の集中が、より一層、致命的な破壊を招く原因となります。

 

 2.3.3 結論:「81-00住宅」とは、力が有り余っているのに、体幹と靭帯が弱い“アンバランスなアスリート”である

 

ここまで、81-00住宅の弱点とその診断法についてお話ししてきました。結論として、この時代に建てられた家を、私たちは「力が有り余っているのに、体幹と靭帯が弱い“アンバランスなアスリート”」と捉えています。

壁の量という「筋力」は、旧耐震時代に比べて、格段に増えました。そのポテンシャルは、決して低くありません。しかし、その有り余る筋肉を支えるべき「体幹(バランス)」が弱く、関節を固める「靭帯(結束力)」も、まだ十分に鍛えられていない。それが、この時代の家の、紛れもない肖像です。

だからこそ、このアスリートに必要な治療は、闇雲に筋肉を増やすことではありません。まずは、偏った筋肉のバランスを整え(耐力壁の再配置)、そして、何よりも重要な関節部分を、強靭なサポーター(耐震金物)で固めてあげること。その的確な8100住宅の補強計画こそが、命を救うのです。

 

 

第3章:あなたの家の“落とし穴”を見抜く、プロの着眼点

章の概要: 

 81-00住宅の耐震性を診断する際、私たちプロがどこに注目し、何を考えているのか、その思考のプロセスを公開します。「間取り図から危険なバランスを読み解く視点」や、「直下率」という一般には知られていない重要な指標を解説することで、専門家としての圧倒的な知見と診断能力の高さを示します。

 

3.1 耐震診断で81-00住宅を診る時、私たちがまず間取り図を睨みつける訳

ここでのポイント:

 私たちプロが、81-00住宅の耐震診断で、まず間取り図から何を読み解こうとしているのか、その思考プロセスを公開します。4分割法などの具体的な手法にも触れ、偏心率という耐震上のリスクを、いかにして可視化するかを解説します。

 

「この一枚の紙の上に、あなたの家の、そしてご家族の運命が、描き出されている」。

お客様から、1981年から2000年にかけて建てられた、いわゆる「81-00住宅」の耐震診断のご依頼をいただいた際、私たちが、お預かりした間取り図を前にして、いつも感じるのは、そのような、身の引き締まるような思いです。

リノベーション雑誌を飾る、華やかな写真や美しいデザイン。その根底にある、一枚の、無機質な線で描かれた図面。しかし、500棟以上の木造住宅の“外科手術”を執刀してきた私たちの目には、その図面が、まるで人体のレントゲン写真のように、その家が抱える“隠れた弱点”や“病巣”を、雄弁に語りかけてくるのです。

なぜ、私たちは、現地調査を行う前に、まず、この間取り図を、まるで難解な暗号を解読するかのように、長時間、あらゆる角度から睨みつけるのでしょうか。

それは、この1990年代の住宅が持つ耐震性**の、最大の“落とし穴”である「バランスの悪さ」が、この一枚の紙の上に、ほぼすべて描き出されているからです。

 

 3.1.1 一枚の図面から、力の流れと、危険な「ねじれ」の起点を読み解く

 

お客様から81-00住宅の耐震診断のご依頼をいただいた際、私たちがまず最初に行うこと。それは、お客様からお預かりした間取り図を、まるで難解な暗号を解読するかのように、長時間、あらゆる角度から睨みつけることです。なぜなら、その一枚の紙の上に、その家が抱える「バランス」の弱点が、ほぼすべて描き出されているからです。

私たちは、まず、1階と2階の間取り図を重ね合わせ、家の四隅を基準に、耐力壁がどこに、どれくらいの量、配置されているかを、色鉛筆などを使って、丁寧にマーキングしていきます。すると、多くの場合、この時代の住宅の構造的な癖が、面白いように浮かび上がってきます。

南側は、大きな窓が並び、壁を示す色がほとんどない、真っ白なエリア。一方で、北側は、浴室やトイレ、階段などが集中し、壁を示す色が密集した、真っ黒なエリア。この色の偏りこそが、「偏心」の可視化です。

私たちは、この図を見ながら、「この家は、地震が来た時、おそらく南東の角を起点にして、時計回りにねじれるように揺れるだろうな」「だとすれば、特にこの部分の柱の引き抜き力が、危険なレベルに達する可能性がある」といった、地震時の挙動を、頭の中でシミュレーションしていくのです。

この、間取り図から構造的な弱点を読み解く能力は、数多くの古い家の耐震性と向き合い、その崩壊のメカニズムを研究し続けてきた、経験豊富な専門家だけが持つ、特殊なスキルと言えるかもしれません。新耐震基準が弱いと言われる所以である、この偏心率という耐震上のリスクを、私たちはまず、この図面から、徹底的に洗い出していくのです。

 

 3.1.2 4分割法で見る、あなたの家の壁配置バランスのセルフチェック

 

この、プロの思考プロセスを、あなたご自身でも、簡易的に追体験できる方法があります。それが、「4分割法」という、壁の配置バランスをチェックするための、基本的な手法です。

ぜひ、ご自宅の間取り図のコピーをご用意いただき、試してみてください。まず、1階の平面図の中心に、縦と横の線を引いて、家全体を4つのエリア(①南東、②南西、③北西、④北東)に分割します。そして、それぞれのエリアの中に、どれくらいの長さの壁が存在するかを、大まかに数えてみてください。

もし、あなたのお住まいが、バランスの取れた設計であれば、この4つのエリアの壁の量は、比較的、均等に近くなるはずです。しかし、もし、南側の①と②のエリアの壁の量が、北側の③と④のエリアに比べて、極端に少ない、という結果になったとしたら。

それは、あなたの家が、地震時に危険な「ねじれ」を起こしやすい、偏心率の高い家である可能性を、強く示唆しています。

もちろん、これは、筋交いの有無などを考慮しない、非常に簡易的なチェックです。しかし、この1990年代の住宅の耐震性を考える上で、ご自身の家の、大まかなバランスの傾向を掴んでおくことは、非常に重要です。このセルフチェックが、あなたの8100住宅の補強を考える、最初のきっかけとなるかもしれません。

 

3.2 「直下率」という、この時代の設計で見過ごされがちな重要指標とは

ここでのポイント:

 81-00住宅の設計で見過ごされがちな、もう一つの重要な弱点「直下率」を解説します。地震の力の流れを阻害する、この設計上の問題点を明らかにすることで、1990年代の住宅が抱える、見えにくい耐震性のリスクを、読者に深く理解させます。

 

間取り図を読み解く上で、私たちが「偏心率」と同じくらい、あるいはそれ以上に重要視している、もう一つの指標があります。それが、2章で紹介した「直下率」です。この直下率の低さこそが、新耐震基準が弱いと言われる、もう一つの、そして、極めて見抜きにくい“落とし穴”なのです。この指標を無視して、8100住宅の補強を語ることは、絶対にできません。

 

  3.2.1 2階の壁の真下に、1階の壁がない。地震の力が、行き場を失う瞬間

 

直下率とは、「2階の耐力壁や柱の真下に、1階の耐力壁や柱が、どれくらいの割合で存在しているか」を示す指標とお話ししました。地震の力は、屋根から2階の床、そして2階の壁へと伝わります。そして、その力は、2階の壁から、1階の壁、そして基礎へと、上から下へ、スムーズに流れていくことで、建物全体で、安全に受け止められます。この、力の流れ道を、私たちは「応力伝達ルート」と呼んでいます。

しかし、もし、2階の壁の真下に、1階の壁がなく、そこが、柱の一本もない、広々としたリビング空間になっていたとしたら、どうなるでしょうか。2階の壁が受け止めた、何トン、何十トンという巨大な地震のエネルギーは、その行き場を、完全に失ってしまいます。そして、その暴れ狂うエネルギーは、2階の床を支える、たった一本の「梁」に、破壊的な力として、集中的に襲いかかるのです。

1990年代の住宅の耐震性を考えるとき、この「直下率の低さ」は、偏心率と並ぶ、極めて深刻な問題です。なぜなら、この時代の設計では、デザインや間取りの自由度が優先されるあまり、この、力の流れという、構造設計の最も基本的な原則が、驚くほど、軽視されてきたからです。

 

  3.2.2 なぜ、1階と2階の窓の位置が揃っていない家は、注意が必要なのか

 

あなたも、ご自宅の外観を、一度、思い浮かべてみてください。2階の窓の真下に、1階の窓が、きれいに揃って配置されていますか。あるいは、1階と2階で、窓の位置が、バラバラになっていないでしょうか。

もし、窓の位置が揃っていない場合、それは、2階の柱の真下に、1階の柱が存在しない可能性が高い、ということを示唆しています。つまり、直下率が低い、危険な設計である可能性を、外観から推測することができるのです。

もちろん、すべてのケースが危険というわけではありません。直下率が低くても、それを補うために、極めて太い梁を入れたり、他の部分で強度を確保したりと、適切に構造計算された設計であれば、問題はありません。

しかし、残念ながら、構造計算が義務付けられていなかった「81-00住宅」の時代には、そうした配慮がなされていないケースが、あまりにも多いのです。

私たちは、1階と2階の図面を重ね合わせ、この「力の流れ」が、どこかで断絶していないか、無理な力がかかっている場所はないかを、一本一本の線の繋がりから、丁寧に読み解いていきます。この地道な作業こそが、2000年基準の弱点にも通じる、設計上の見えない欠陥を発見するための、不可欠なプロセスなのです。そして、耐震金物が不足しているこの時代の住宅では、こうした力の集中が、より一層、致命的な破壊を招く原因となります。

 

 

3.3 結論:「81-00住宅」とは、力が有り余っているのに、体幹と靭帯が弱い“アンバランスなアスリート”である

ここでのポイント:

 ここまでの議論を総括し、「81-00住宅」を“アンバランスなアスリート”と比喩することで、その弱点と、必要な補強の方向性を、読者の記憶に強く印象付けます。

 

ここまで、81-00住宅の弱点とその診断法についてお話ししてきました。結論として、この時代に建てられた家を、私たちは「力が有り余っているのに、体幹と靭帯が弱い“アンバランスなアスリート”」と捉えています。

 

  3.3.1 このアスリートに必要なのは、さらなる筋力増強ではない

 

壁の量という「筋力」は、旧耐震時代に比べて、格段に増えました。そのポテンシャルは、決して低くありません。

しかし、その有り余る筋肉を支えるべき「体幹(バランス)」が弱く、関節を固める「靭帯(結束力)」も、まだ十分に鍛えられていない。それが、この時代の家の、紛れもない肖像です。

このアスリートが、次の試合(巨大地震)で勝利するためには、闇雲に、さらに筋肉を増やす(壁を増設する)ことではありません。それは、かえって、弱い体幹と関節に、さらなる負担をかけ、自滅を早めるだけの、愚かな行為です。

 

  3.3.2 体幹を鍛え直し(バランス改善)、関節を固める(金物補強)という、的確な8100住宅の補強計画こそが、命を救う

 

このアスリートに本当に必要な治療。それは、まず、偏った筋肉のバランスを整えるための、緻密な「体幹トレーニング」、すなわち、偏心率を改善するための、戦略的な耐力壁の再配置計画です。そして、何よりも重要なのが、その鍛え上げた体幹と筋肉を、確実に繋ぎとめるための、「靭帯再生手術」、すなわち、N値計算に基づいた、適切な耐震金物の補強工事です。

新耐震基準が弱い、と言われる本質的な理由である、この二つの弱点を、的確に、そして根本から治療すること。それこそが、あなたの8100住宅を、見せかけではない、“本物の新耐震住宅”へと生まれ変わらせ、ご家族の命を救うための、唯一の道筋なのです。

 

【結び】“本物の新耐震”へと、あなたの家を再生させるために

章の概要:

この記事の学びを力強く総括します。「81-00住宅」の弱点を正しく理解した読者に対し、その弱点は「治療可能」であり、適切な補強工事によって“本物の新耐震住宅”へと生まれ変われるのだという、希望のメッセージを伝えます。

 

あなたの家の弱点は、明確になりました。しかし、それは絶望ではなく、希望の始まりです

ここまで、この長い解説にお付き合いいただき、誠にありがとうございました。「新耐震だから安心」という、長年の、そして、決して間違いではなかったはずの思い込みが、少し揺らいでしまったかもしれません。ご自宅が建てられた、1981年から2000年という、まさに日本の住宅史における“過渡期”。その時代が抱える、「バランス(偏心率)」と「結束力(耐震金物 不足)」という、二つの大きな弱点。その厳しい現実に、少し不安を感じていらっしゃるかもしれません。

しかし、どうか、そう思わないでください。500棟以上の家の“外科手術”を執刀してきた専門医として、あなたに、今、最も強くお伝えしたいこと。それは、「正確な診断は、絶望の宣告ではなく、希望に満ちた治療への、最初の扉である」ということです。

病気の治療が、正確な病名の特定から始まるように、家の再生もまた、その弱点を正確に知ることからしか、始まり得ないのです。あなたは、この章を読み終えた今、ご自身の住宅が持つ、1990年代の耐震性の真実を知り、なぜ新耐震基準が時に弱いと言われるのか、その本質的な理由を、誰よりも深く理解されました。それは、あなたの家が、本当の意味で安全な住まいへと生まれ変わるための、最も重要で、最も価値ある第一歩を踏み出された、ということに他なりません。

漠然とした、しかし心の奥底に常にあった家への耐震不安は、もはや、ただ恐れるべき対象ではありません。それは、「バランスを整え、結束力を高める」という、解決可能な、具体的な「課題」へと変わったのです。あなたの家の弱点が明確になったということは、すなわち、的確な治療(補強)を行うための、最高のスタートラインに立った、ということなのです。それは、絶望ではなく、希望の始まりに他なりません。

 

8100住宅の補強とは、弱点を克服し、その家が本来持つポテンシャルを100%引き出す作業

 

 

8100住宅の補強工事とは、決して、欠陥を繕うだけの、後ろ向きな作業ではありません。

それは、過渡期という時代の制約の中で、不完全な形で生まれてきてしまった、あなたの家が、本来持っていたはずのポテンシャルを、現代の最高の知識と技術で、100%、いや、120%引き出してあげる、極めて創造的で、愛情に満ちた作業です。

思い出してください。私たちは、この時代の家を、「力が有り余っているのに、体幹と靭帯が弱い“アンバランスなアスリート”」と表現しました。

このアスリートは、旧耐震時代の選手とは比較にならないほどの、素晴らしい「筋力(壁の量)」を、生まれながらにして持っています。そのポテンシャルは、計り知れません。

私たちが行う8100住宅の補強とは、このアスリートに、科学的なトレーニングを施すことに他なりません。

アンバランスだった骨格(偏心率)を、緻密な計算に基づいて整え、弱かった関節(耐震金物)を、最新の技術で強靭なものへと変える。その外科手術とリハビリテーションを経て、あなたの家は、初めて、その有り余る力を100%発揮できる、“本物の新耐震住宅”として、生まれ変わるのです。

それは、新耐震基準が弱いと言われた弱点を克服するというレベルを超え、その家が持つ、本来の価値と輝きを、最大限に引き出す、希望に満ちたプロセスなのです。

 

 

さあ、過渡期の罠の正体は、もう分かりました。そして、その罠から抜け出し、あなたの家を、真の安全へと導くための、希望の光も見えてきたはずです。

「では、具体的に、どうやって、あの“バランス”の悪さを治すのか?」 「不足している“結束力”を、どのようにして、取り戻すのか?」

あなたの心の中に生まれた、その、前向きな疑問。それこそが、最高の耐震リフォームのきっかけです。 次は、その問いに答えるための、具体的な「治療計画」の物語が始まります。

 

>>次は『【81-00住宅の治療法】偏りを正し、骨格を繋ぐ。あなたの家を“本物の新耐震”にする補強工事』へ進む

   

   関連記事『【築年数でわかるあなたに必要な性能向上リノベーションの優先順位』はこちら

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耐震補強リフォーム工事完全ガイドは4部構成(診断編6記事・治療編11記事・計画編4記事・未来編7記事)の全28話構成で、耐震補強リフォーム工事に必要な全知識をを網羅的に解説します。読みたいテーマが決まっている方は以下からお進みください。

※すべてのページでYouTube動画解説リンクがありますので、合わせてご覧ください。

 


 

【耐震補強リフォーム工事完全ガイド】


 

第1部:【診断編】我が家の“カルテ”を読み解き、真実と向き合う

 

診断編の役割とコンセプト: 皆さんの漠然とした「家への耐震不安」に寄り添い、その正体を突き止めるための「診断」に特化したパートです。地震の歴史からご自宅の築年数が持つ意味を学び、耐震性の客観的な物差しを知り、そしてプロの診断技術の深淵に触れることで、読者の不安を「解決すべき具体的な課題」へと転換させます。すべての治療は、正確な診断から始まります。

記事(全6本):

➡️ なぜ今、あなたの家に「耐震」という対話が必要なのか

➡️ あなたの家が生まれた時代:旧耐震・81-00住宅・2000年基準、それぞれの「常識」と「弱点」

➡️ 我が家の体力測定:耐震性の“三位一体”「評点・偏心率・N値」とは何か

➡️ 耐震診断の全貌:費用・流れ・依頼先は?プロが教える診断結果の正しい読み解き方

➡️ 究極の診断法「スケルトンリフォーム」。なぜ私たちは壁を剥がし、家の“素顔”と向き合うのか

➡️ 壁の中に潜む時限爆弾:見えない木材の腐食とシロアリが、あなたの家の体力を奪っている


 

 

第2部:【治療編】築年数別の最適解。“三位一体”を取り戻す構造外科手術

 

治療編の役割とコンセプト: このガイドの技術的な核心です。第1部で明らかになった家の“カルテ”に基づき、それぞれの時代が抱える固有の病巣に対する、具体的な「治療計画=補強工事」を詳述します。旧耐震の宿命である基礎補強から、81-00住宅のバランス修正、そして現代住宅の損傷防止まで。プロが執刀する「構造外科手術」の全貌を、豊富な経験に基づいて解説します。

 

該当記事(全11本):

 

➡️ 【旧耐震の宿命】なぜ「基礎補強」なくして、評点1.5(強度)は絶対に不可能なのか

➡️ 【旧耐震の治療法】無筋基礎を蘇らせる「基礎補強工事」と、骨格を再構築する「壁量・金物」計画

➡️ 【81-00住宅の落とし穴】「新耐震なのに倒壊」の衝撃。過渡期の家に潜む“バランス”と“結束力”の罠

➡️ 【81-00住宅の治療法】偏りを正し、骨格を繋ぐ。あなたの家を“本物の新耐震”にする補強工事

➡️ 【2000年基準以降の課題】「倒壊はしないが、住めなくなる」という現実

➡️ 【次世代の備え】絶対的な耐震性能の上にこそ。「制震」がもたらす“損傷防止”という価値

➡️ 柱の抜けを防ぐ生命線「N値計算」:500棟の経験が明かす、本当に意味のある耐震金物補強の全貌

➡️ 「耐震」「制震」「免震」の違いとは?それぞれのメリット・デメリットをプロが徹底比較

➡️ 【最重要】「制震」は耐震の“代わり”ではない。損傷を防ぐための制震ダンパー“正しい使い方”

➡️ 家全体の歪みを抑え込む「剛床工法」:2階の床と屋根が“三位一体”を支える隠れた主役

➡️ 【専門家向け】許容応力度計算はなぜ必要か?構造計算がもたらす品質と責任


 

 

第3部:【計画編】見えざる壁を乗り越える。法規と費用を味方につける航海術

 

計画編の役割とコンセプト: どんなに優れた治療計画も、現実の壁を乗り越えなければ絵に描いた餅です。このパートでは、リフォーム計画を阻む二大障壁である「法規」と「費用」に正面から向き合い、それらを敵ではなく「味方」につけるための、具体的な航海術を授けます。2025年法改正、補助金、コストコントロール。プロの知恵で、計画実現への確かな道筋を照らします。

 

該当記事(全4本):

 

➡️ 【2025年法改正】建築確認申請を“賢く回避”する、性能向上リノベーションの戦略的計画術

➡️ 検査済証なき家、再建築不可物件の再生シナリオ:法的制約の中で命を守るための現実解

➡️ 【費用全貌】モデルケースで見る耐震リフォーム工事のリアルな費用と、賢いコストダウン術

➡️ 【2025年最新版】耐震リフォーム補助金・減税制度フル活用マニュアル


 

 

第4部:【未来編】最高の選択。命と資産、そして家族の物語を未来へ繋ぐ

 

未来編の役割とコンセプト: このガイドの最終到達点。技術論を超え、あなたの、そしてご家族の「未来」をどう創造するかを共に考えるパートです。耐震と断熱を掛け合わせた究極の価値、500棟の軌跡が証明する再生の物語、そして、その未来を託すに足る真のパートナーを見抜くための最後の選択。あなたの決断を、私たちが全力でサポートします。

 

該当記事(全7本):

➡️ 【最終方程式】「最強の耐震」×「最高の断熱」=家族の健康と資産価値の最大化

➡️ 【実例集】私たちの500棟の軌跡:狭小住宅、ビルトインガレージ、築80年古民家の再生工事事例

➡️ 耐震リフォーム業者選び、9つの最終チェックリスト:「三位一体」と「制震の役割」を語れるか

➡️ なぜ、大手ハウスメーカーは木造リノベーションが不得意なのか?業界の構造的真実

➡️ セカンドオピニオンのススメ:あなたの家の診断書、私たちにも見せてください

➡️ 【最終章】無料診断で始まる、あなたの家の新しい物語:私たちが提供する“絶対的な安心”の全プロセス

➡️ 【特別寄稿】耐震とは、文化を未来へ繋ぐこと。棟梁として、四代目として。

 

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導入編2記事・基礎知識編3記事・部位別実践編4記事・特殊ケース攻略編2記事・計画実行編5記事の全16話構成で、断熱リフォームに必要な全知識をを網羅的に解説します。読みたいテーマが決まっている方は以下からお進みください。

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< この記事の著者情報 >

稲葉 高志

 

ハイウィル株式会社 四代目社長

1976年生まれ 東京都出身。

【経歴】

家業(現ハイウィル)が創業大正8年の老舗瓦屋だった為、幼少よりたくさんの職人に囲まれて育つ。

中学生の頃、アルバイトで瓦の荷揚げを毎日していて祖父の職人としての生き方に感銘を受ける。 日本大学法学部法律学科法職課程を経て、大手ディベロッパーでの不動産販売営業に従事。

この時の仕事環境とスキルが人生の転機に。  TVCMでの華やかな会社イメージとは裏腹に、当たり前に灰皿や拳が飛んでくるような職場の中、東京営業本部約170名中、営業成績6期連続1位の座を譲ることなく退社。ここで営業力の基礎を徹底的に養うことになる。その後、工務店で主に木造改築に従事し、100棟以上の木造フルリフォームを大工職人として施工、管理者として管理

2003年に独立し 耐震性能と断熱性能を現行の新築の最高水準でバリューアップさせる戸建てフルリフォームを150棟営業、施工管理に従事

2008年家業であるハイウィル株式会社へ業務移管後、 4代目代表取締役に就任。

250棟の木造改修の営業、施工管理に従事

2015年旧耐震住宅の「耐震等級3」への推進、「断熱等級4」への推進を目指し、 自身の通算500棟を超える木造フルリフォーム・リノベーション経験の集大成として、性能向上に特化した日本初の木造フルリオーム&リノベーションオウンドメディア 「増改築com®」をオープン

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    4代目代表よりご挨拶

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