戸建フルリフォームなら「増改築.com®」TOP > 断熱リフォーム(リノベーション)の費用や工期、工事内容について>断熱リフォーム 完全ガイド【計画・実行編②】プロの思考法 ― 新築にはない、断熱リフォーム現場の「最適解」の見つけ方
更新日:2025.7.17
ケーススタディ①:「壁厚の壁」― 理想の断熱材が、物理的に入らない時
ケーススタディ②:「勾配天井の罠」― 開放感と断熱性能を両立させる技術
ケーススタディ③:「想定外」への対応力 ― リフォームは“バランス調整”の芸術
結論:なぜ「経験(場数)」と「総合知」が絶対に必要なのか
【計画・実行編①】では、理想的な断熱材や仕上げ材のスペックについて学びました。最高の素材を選ぶための「知識の物差し」は、今あなたの手の中にあります。
しかし、既存の家を改修する断熱リフォームの現場は、ゼロから作る新築とは全く異なります。そこは、図面通りにはいかない数々の「制約」や「想定外」に満ち溢れています。
「理想の断熱材を入れるには、壁の厚みが足りない…」
「開放的な勾配天井にしたいが、断熱性能が犠牲になるのでは…」
「床下に配管があって、計画通りの厚みの断熱材が入らない…」
新築では起こり得ないこれらの問題に直面した時、その会社の「本当の実力」が試されます。単一の工法や断熱材の知識しかない業者であれば、「それはできません」「性能が落ちますが仕方ありません」の一言で終わってしまうでしょう。
しかし、500棟以上のスケルトンリノベーション現場で多種多様な課題を解決してきた私たちプロは、そこで思考を止めません。制約の中で、知識と技術を総動員し、お客様にとっての「最適解」を導き出す。それこそが、私たちの仕事の本質です。
この章では、そうした「現実の壁」を乗り越えるための、プロの思考プロセスと応用技術を、具体的なケーススタディを通して、余すところなく伝授します。これこそ、断熱リフォームの成否を分ける、経験(場数)に裏打ちされた本物のノウハウです。
自然素材で人気の「セルロースファイバー」は、高い調湿性や蓄熱性、そして卓越した吸音効果が魅力です。 しかし、高い断熱性能である「断熱等級6(HEAT20 G2)」レベルを壁で達成するには、外皮計算をすれば、一般的に120mmの厚みが必要となります。
一方で、日本の多くの木造住宅は、柱の太さが3寸5分(約105mm)です。つまり、断熱材を充填できる空間は105mmしかなく、15mm足りません。さらに築50年を超えるような古い家では、柱が3寸角(約90mm)というケースさえあります。
この状況で、あなたならどうしますか?プロの頭の中では、瞬時に複数の解決策がシミュレーションされています。
解決策A:「壁を“作る”」― 胴縁による付加断熱層の構築
最も正攻法なのが、足りないなら厚くする、という考え方です。既存の柱(105mm)の室内側に、厚さ15mmの木材(胴縁)を打ち付け、壁の総厚を120mmに確保します。これにより、お客様が希望するセルロースファイバーを、性能を一切犠牲にすることなく、完璧な状態で充填できます。
メリット: お客様の希望の素材を、最高の性能で実現できる。
デメリット: 部屋がわずかに狭くなる。木材の追加と施工の手間により、コストが上がる。窓枠やコンセント位置の調整も必要になる。
このメリット・デメリットを正確に説明し、お客様に判断を委ねるのが、プロの誠実さです。
解決策B:「断熱材を“変える”」― 素材の性能で、厚みの壁を越える
壁の厚さを変えられない、あるいは3寸角(90mm)で、そもそも厚くしても足りない。そんな時は、断熱材の種類そのものを見直します。ここで登場するのが「硬質30倍発泡ウレタン」です。
テレビCMなどで見る、壁からモコモコと大きく膨れ上がるのは、主に「100倍発泡」の軟質ウレタンです。モコモコと膨れ上がる黄色の断熱材です。これは柔らかく湿気を通すため、別途「防湿気密シート」が必須です。
一方、私たちが選択するのは「30倍発泡」の硬質ウレタン。これは、非常に細かい独立した気泡の中に断熱ガスが閉じ込められているため、断熱性能が100倍発泡タイプよりも格段に高く、かつ素材自体が湿気や空気をほとんど通しません。 色はピンク色をしています。つまり、「断熱」「気密」「防湿」の三役をこなすエリート素材なのです。
この高い性能により、90mmの厚みで、セルロースファイバー120mmと同等以上の断熱性能を発揮できます。素材の特性を熟知しているからこそ、コストと性能のバランスを見ながら、最適な代替案を提示できるのです。
解決策C:「家全体で“調整する”」― 外皮全体のトータルバランス設計
「どうしてもこの壁には、この厚みでセルロースファイバーを使いたい」という、お客様の強いご要望がある場合。私たちは、家全体の断熱性能を示すUa値に着目します。
Ua値とは、家全体から逃げる熱量の平均値です。つまり、壁の性能が目標値にわずかに届かなくても、そのマイナス分を「窓の性能」で補う、という“合わせ技”が可能なのです。
例えば、当初の予定だった「樹脂サッシ+Low-Eペアガラス」から、さらに高性能な「樹脂サッシ+トリプルガラス」にアップグレードする。あるいは、断熱性能が特に低い「玄関ドア」を最高性能のものに交換する。もちろん費用は上がってしますますが、ここはあなたの優先順位の問題となります。これにより、家全体のUA値の帳尻を合わせ、目標性能をクリアします。これは、建物全体のエネルギー収支を計算できる、高度な知識と設計力があって初めて可能な提案です。
105角の柱に15㎜の胴縁を打ち120㎜を確保しセルロースファイバーを充填
90mmの厚みで、セルロースファイバー120mmと同等以上の断熱性能を誇る硬質30倍発泡ウレタン
リフォームで最も要望が多いものの一つが、「天井を解体して、梁を現しにした開放的な勾配天井にしたい」というものです。しかし、これは断熱設計において、非常に大きな「罠」をはらんでいます。
通常の天井断熱(天井裏に断熱材を敷く)であれば、300mm以上の厚い断熱層を容易に確保できます。しかし、勾配天井にするということは、断熱方式を「屋根断熱」(屋根の垂木の間に断熱材を入れる)に変更するということです。屋根垂木の厚みは限られており(通常105mm程度)、十分な断熱層を確保するのが非常に難しいのです。
絶対条件:断熱層の厚みから逆算する
まず、屋根断熱で十分な性能(断熱等級6以上を目指すなら、最低でもセルロースやグラスウールで250mm~300mm厚)を確保するためには、既存の垂木にさらに木材を抱かせて「垂木せいを大きくする」工事が必須であることをお客様に伝えます。 これにより、天井高が若干低くなる可能性も正直に説明します。
材料と施工の限界を知る
「では、性能の高い30倍発泡ウレタンを使えば薄くできるのでは?」という発想になります。確かに、12cm以上の厚みで高い性能は出せます。しかし、プロは「施工の限界」を知っています。
この厚みのウレタンは、一度に吹き付けることができず、複数回に分ける「2度打ち」が必要となり、コストと工期が嵩みます。
そして何より、30倍発泡ウレタンの施工には、材料を積んだ2tトラックと、現場で使う大型の機械(ジェネレーター)が必要です。道が狭く、車の入れないロケーションでは、この工法は選択肢にすら入り得ないのです。
このような、カタログには決して載っていない現実的な制約まで含めて、お客様にとっての最適解を導き出すのが、私たちの仕事です。
吹き抜け等空間に余裕があるとき300㎜の断熱層下地を屋根なりに組みセルr-巣ファイバーを充填
小屋裏等少しでも高さが欲しいケースでは、硬質30倍発泡ウレタン充填
床の断熱計画では、高性能な断熱材を75mmの厚みで入れる予定でした。しかし、床を解体してみると、点検口からは見えなかった部分の地面が、広範囲にわたってコンクリートで嵩上げされており、計画していた75mmの床断熱材を施工する物理的な高さ(床下の空間)が確保できないことが判明しました。
これは、過去のずさんなリフォームや、湿気対策としてDIYで行われたものかもしれません。いずれにせよ、計画は白紙です。
ここで「この部分はコンクリートなので断熱材が入りません。ここだけ断熱欠損になりますが、仕方ないです」で終わるのは、素人の仕事です。私たちは、この「想定外」を乗り越え、かつ当初の計画性能を達成するための、複数のシナリオを瞬時に頭の中で組み立てます。
Step1. 現状分析とリスク評価
まず、この「未知のコンクリート」がもたらすリスクを評価します。
湿気はどうか?:コンクリートの下に防湿シートがなければ、地面からの湿気がコンクリートを通じて上がり、土台の木材を腐らせる原因になります。コンクリートの湿潤状態と、接している土台の含水率を計測します。
構造への影響は?:不適切な打設であれば、建物の基礎に悪影響を与えている可能性も考慮します。
もし、土台に腐食などの問題が見つかれば、断熱工事の前に、まずその補修・交換を行うことを最優先にご提案します。
Step2. 断熱手法の“ハイブリッド化”
このコンクリートが打設されたエリアでは、もはや床下空間が存在しないため、計画していた「床断熱」は物理的に不可能です。
そこで、プロは思考を切り替えます。「このエリアだけ、“基礎断熱”として設計し直そう」と。 具体的には、以下のハイブリッド工法を構築します。
通常エリア: 計画通り、高性能な「床断熱」を施工。
コンクリート嵩上げエリア:
コンクリートの外周を囲む基礎の内壁に、高性能な板状断熱材(フェノバボード50mmなど)を貼り付けます。
コンクリート自体を「断熱された空間の床」として扱うことで、部分的な「基礎断熱」へと計画を変更します。
さらに、このコンクリートと、他の地面との取り合い部分には、新たに防湿シートを施工し、湿気の経路を完全に遮断します。
Step3. 家全体の性能再計算と“バランス調整”
「床断熱」と「基礎断熱」では、熱の計算方法が異なります。ハイブリッド化したことで、家全体の断熱性能を示すUA値が、当初の計画からわずかにズレる可能性があります。
そこで、変更した仕様で家全体のUA値を再計算します。もし、目標値にわずかに届かない、という結果が出た場合、私たちは次の手を打ちます。
「他の部位で補う」のです。
例えば、「床の仕様変更により、UA値が計画より0.01悪化しました。このマイナス分を補填するため、当初250mm厚で計画していた天井のセルロースファイバーを、300mm厚に変更させていただけないでしょうか。これにより、家全体の性能は当初の計画通り、目標値をクリアできます」といった、具体的な代替案をお客様に提示します。
Step4. お客様へのご報告と合意形成
最後に、この一連の思考プロセスと複数の選択肢を、お客様に分かりやすくご報告します。「想定外の事態が起きましたが、A案、B案、C案という解決策があり、それぞれにこれだけのメリット・デメリット、そして費用変動があります。家全体の性能を維持するため、私たちはこのB案が最適と考えますが、いかがいたしましょうか?」と。
透明性の高い情報開示と、専門知識に裏打ちされた代替案の提示こそが、お客様との信頼関係を築き、プロジェクトを成功に導く鍵となります。
断熱リフォームは、決まった答えのない、一棟一棟がオーダーメイドの応用問題です。新築のセオリー通りには決して進みません。
壁の厚み、天井の高さ、予算、デザイン、そして現場で初めて発覚する「想定外」の事態。これら全ての変数に対して、断熱材と施工法という無数の「引き出し」の中から、最適な組み合わせを瞬時に導き出す。それこそが、500棟以上の現場で培われた「経験(場数)」の真価であり、断熱リフォームの成功に不可欠な能力なのです。
さて、プロの思考法という、もう一段上の知識を身につけたあなた。次はいよいよ、家の燃費性能を示す「BEI」を切り口に、断熱後の住宅に最適な「設備」選びのすべてを解き明かします。
断熱リフォームで失敗しない為の『断熱リフォーム 完全ガイド』
500棟以上のスケルトンリノベーションの断熱改修知見を網羅!
断熱リフォームをする前に必ず読んでください!
何から読めばいいかわからない方は総合案内よりお進みください。
導入編2記事・基礎知識編3記事・部位別実践編4記事・特殊ケース攻略編2記事・計画実行編5記事の全16話構成で、断熱リフォームに必要な全知識をを網羅的に解説します。読みたいテーマが決まっている方は以下からお進みください。
※すべてのページでYouTube動画解説リンクがありますので、合わせてご覧ください。
ハイウィル株式会社 四代目社長
1976年生まれ 東京都出身。
【経歴】
家業(現ハイウィル)が創業大正8年の老舗瓦屋だった為、幼少よりたくさんの職人に囲まれて育つ。
中学生の頃、アルバイトで瓦の荷揚げを毎日していて祖父の職人としての生き方に感銘を受ける。 日本大学法学部法律学科法職課程を経て、大手ディベロッパーでの不動産販売営業に従事。
この時の仕事環境とスキルが人生の転機に。 TVCMでの華やかな会社イメージとは裏腹に、当たり前に灰皿や拳が飛んでくるような職場の中、東京営業本部約170名中、営業成績6期連続1位の座を譲ることなく退社。ここで営業力の基礎を徹底的に養うことになる。その後、工務店で主に木造改築に従事し、100棟以上の木造フルリフォームを大工職人として施工、管理者として管理。
2003年に独立し 耐震性能と断熱性能を現行の新築の最高水準でバリューアップさせる戸建てフルリフォームを150棟、営業、施工管理に従事。
2008年家業であるハイウィル株式会社へ業務移管後、 4代目代表取締役に就任。
250棟の木造改修の営業、施工管理に従事。
2015年旧耐震住宅の「耐震等級3」への推進、「断熱等級4」への推進を目指し、 自身の通算500棟を超える木造フルリフォーム・リノベーション経験の集大成として、性能向上に特化した日本初の木造フルリオーム&リノベーションオウンドメディア 「増改築com®」をオープン。
フルリフォーム(全面リフォーム)で最も大切なのは「断熱」と「耐震」です。性能向上を第一に考え、末永く安心して住める快適な住まいを目指しましょう。
戸建てリノベーションの専属スタッフが担当致します。
一戸建て家のリフォームに関することを
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営業マンはおりませんので、しつこい営業等も一切ございません。
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