戸建フルリフォームなら「増改築.com®」TOP > 断熱リフォーム(リノベーション)の費用や工期、工事内容について>断熱リフォーム 完全ガイド【基礎知識編③】【本ガイドの核心】断熱の先にある快適性:「蓄熱」と「自然素材」という選択肢
更新日:2025.7.10
1. 「断熱」と「蓄熱」― 似て非なる、快適性の両輪
2. 見える結露、見えない結露 ― 2種類の結露とその恐怖
3. 室温を安定させる魔法 ― 「比熱」で考える本物の蓄熱性能
4. 「環境温度」という、もう一つの“ものさし”
5. 【結論】コストと性能で選ぶなら「杉」。その多才な魅力
6. 【実践レポート】床暖房のいらない空間はこうして作る
まとめ:「断熱」で守り、「蓄熱」で育む、本物の快適性
【基礎知識編】の①と②では、家の性能を高めるための「守りの科学」を学んできました。「断熱」と「気密」で熱の損失を防ぎ、「防湿」と「換気」で結露という病巣を断つ。これらは、快適な住まいを実現するための絶対的な土台です。
しかし、最高の住環境を追求する旅は、ここで終わりません。
「なぜ、同じ室温22℃でも、ある家は陽だまりのように心地よく、ある家はどこか人工的で落ち着かないのだろうか?」
その答えは、家の性能を単なる「熱の損失を防ぐ」という視点だけで見ていないか、という問いに隠されています。この章では、一歩進んで「攻め」の科学、つまり、自然の力を借りて熱を巧みにコントロールし、ワンランク上の心地よさを積極的に生み出すための、本ガイドの核心となる知識をお伝えします。
そのキーワードは「蓄熱(ちくねつ)」と「自然素材」です。この二つを理解することこそ、多くの人が憧れる「床暖房のいらない、本当に快適な家」への唯一の道筋なのです。
「断熱」と「蓄熱」は、しばしば混同されがちですが、その役割は全く異なります。この二つの違いを理解することが、快適性の科学への入り口です。
断熱とは「保温」する力 ― 熱の移動を遅らせるバリア 「断熱」は、ダウンジャケットや魔法瓶のように、熱が内外に伝わるのを「遅らせる」技術です。その性能は、熱の伝わりにくさを示す「熱抵抗値」や、家全体の熱の逃げやすさを示す「UA値」で測られます。断熱材は、いわば家の外周に設けられた「熱のバリア」であり、外の暑さや寒さが室内に侵入するのを防ぎ、室内の快適な空気が外に逃げるのを防ぐ、「守り」の要です。
蓄熱とは「熱を蓄える」力 ― 温度変化を和らげるバッファ 「蓄熱」は、サウナで熱せられた石(サウナストーン)がじんわりと熱を放ち続けるように、熱を「吸収して蓄え、ゆっくりと放出する」性質です。急激な温度変化を和らげ、室温を安定させる「バッファ(緩衝材)」の役割を果たします。これが、快適性を積極的に創り出す「攻め」の要素なのです。
最高の住環境は、この二つの力が両輪となって初めて実現します。つまり、「高断熱・高気密」な家(守り)で外気の影響を完全にシャットアウトした上で、室内の壁や床に「蓄熱性能」の高い素材(攻め)を使う。これにより、日中に太陽や暖房から得た熱を家自体が蓄え、夜間にゆっくりと放出して、一日中、春の陽だまりのような安定した温熱環境を創り出すことができるのです。
冬の朝、素足で床に立った時を想像してください。タイルや一般的な合板フローリングは「ヒヤッ」とするのに、無垢材の床はなぜか冷たさを感じにくい。不思議に思ったことはありませんか?
これは、気のせいではありません。その秘密は、物質の「熱伝導率」と「比重」にあります。
人間の肌が「冷たい」と感じるのは、対象物の実際の温度が低いからだけではありません。自分の体温が、その対象物に「速く、そして大量に奪われる」ことによって、冷たさを感じ取るのです。熱伝導率が高い物質(タイルや鉄など)は、足の裏の熱を瞬時に奪っていくため、私たちは「冷たい」と感じます。
そして、木材がなぜ熱を伝えにくいのか。その答えは、木材の内部構造にあります。杉の木を電子顕微鏡で見ると、無数の小さな細胞が蜂の巣のように集まった構造(ハニカム構造)をしています。その細胞の一つひとつの内部は、熱を最も伝えにくい「空気」で満たされているのです。 この無数の空気層が、熱が伝わるのを防ぐ強力なバリアの役割を果たしています。
この「内部にどれだけ空気を含んでいるか」
を示す科学的な指標が「比重」です。比重が小さい(軽い)木材ほど、空気の割合が多く、熱を伝えにくいため、触れた時に自分の熱が奪われず、「温かい」と感じるのです。
スギを顕微鏡で見た画像
素材 | 比重 | 熱伝導率 W/(m・K) | 特徴 |
---|---|---|---|
桐(キリ) | 0.29 | (非常に低い) | 最も軽く、熱を伝えにくい。日本の木材でトップクラスの断熱性。 |
杉(スギ) | 0.38 | 0.087 | 軽く、非常に熱を伝えにくい。コストパフォーマンスに優れる。 |
檜(ヒノキ) | 0.41 | ―(未測定/文献なし) | 杉よりやや重いが、熱を伝えにくく、香りも良い。 |
オーク/カリン | 0.65〜 | (高い) | 重く緻密で硬いが、その分熱を伝えやすく、触れると冷たく感じる。 |
コンクリート | ― | 1.0 | 杉の約12倍も熱を伝えやすく、非常に冷たい。 |
熱伝導率が低いほど、断熱性に優れています。
木材の中でも「桐」や「杉」は、断熱材としての潜在力が高く、床材・内装材としても評価されています。
一方、「オーク」「カリン」は高級感と強度が魅力ですが、断熱性という観点ではやや劣ります。
「コンクリート」はその構造強度から建築には不可欠ですが、断熱性は著しく低いため、内外の断熱処理が重要です。
この「比重」という科学的なものさしを持つことで、単なる好みやデザインだけでなく、「肌触りの温かさ」という性能の観点から床材を選ぶことができるようになります。
次に、室温の安定性に大きく関わる、もう一つの重要な指標「比熱」
について解説します。これは、物質が「どれだけ多くの熱を蓄えることができるか」を示す数値です。
この「比熱」は、断熱材選びにおいてしばしば軽視されがちですが、実は快適性を左右する隠れたキープレイヤーです。例えば、代表的な断熱材である「グラスウール」と、新聞紙をリサイクルして作られる自然素材の断熱材「セルロースファイバー」を比較してみましょう。
断熱材 | 熱伝導率<br>W/(m・K)<br>(断熱性能) | 比熱<br>kJ/(kg・K)<br>(蓄熱性能) | 比較(セルロースとの比) |
---|---|---|---|
グラスウール | 約0.038 | 約13.4 | ― |
セルロースファイバー | 約0.040 | 約103.4 | 約7.7倍の蓄熱性能 |
熱の伝わりにくさ(断熱性能)を示す熱伝導率は、両者で大きな差はありません。しかし、熱を蓄える力(蓄熱性能)を示す比熱は、セルロースファイバーの方が約7.7倍も高いのです。
これが何を意味するか。 壁や天井にセルロースファイバーを施工した家は、日中の太陽熱や暖房の熱をより多く蓄えることができます。そして、夜になって気温が下がってきても、蓄えた熱をゆっくりと室内に放出することで、急激な室温の低下を防ぎ、安定した温熱環境を保ってくれるのです。これは、熱を蓄える力がほとんどないグラスウールにはない、大きなアドバンテージです。
人が本当に「快適だ」と感じるかどうかは、エアコンの設定温度だけでは決まりません。そこには、「環境温度」という、もう一つの重要な“ものさし”が存在します。
環境温度 ≒(床の表面温度 + 壁の表面温度)÷ 2
人間が最も快適と感じる環境温度は約23℃と言われています。
例えば、冬にエアコンをガンガン効かせて室温(空気の温度)を26℃にしても、断熱不足で冷たい壁の表面温度が10℃しかなければ、環境温度は(26+10)÷2=18℃となり、寒く感じてしまいます。
つまり、本当に快適な空間を作るには、空気だけでなく、人間を取り囲む「壁」や「床」自体を温める必要があるのです。そのために、比熱の高い(蓄熱する)素材を選ぶことが極めて重要になります。
ここまで解説してきた「比重(肌触りの温かさ)」と「比熱(蓄熱性)」、そして「コスト」。この3つのバランスで見たとき、日本の住宅において最も推奨できる素材が、国産の「杉(スギ)」です。比重が低く(温かく)、価格も手頃な「杉」はコストパフォーマンスに優れます。
杉は、針葉樹の中でも比重が小さく温かいだけでなく、比熱も783と高く、優れた蓄熱性能を誇ります。 さらに、抗菌・抗ウイルス作用や、湿度を調整する「調湿作用」も持っており、日本の気候風土に最適な、まさに万能選手と言えるでしょう。
ただし、一つだけ重要な注意点があります。それは、無垢材の表面をウレタン塗装で固めてしまわないこと。ウレタン塗装は、木の表面にプラスチックの膜を張るようなもので、せっかくの木の温かみや調湿効果をすべて殺してしまいます。 素材の性能を最大限に引き出すためには、オイルやワックスなどの「浸透性塗料」を選ぶことを強くお勧めします。
理論だけではありません。私たちは、この「高性能断熱+高蓄熱性自然素材」という組み合わせが、実際にどれほどの快適性を生み出すのかを実証するため、自社の接客ルームをこの仕様でリフォームしました。
まず大前提として、床下からの冷気を完全にシャットアウトします。一般的なウレタンフォーム(30mm)ではなく、熱伝導率0.022W/m・Kを誇る高性能断熱材「ミラネクストラムダ」を、特注の75mm厚で根太間に隙間なく充填。さらに気流止めと防湿シートで、床下の影響を完璧に断ち切ります。
その上に、厚さ30mmの国産杉板を施工。一般的な合板フローリング(12mm)の2.5倍の厚みがあり、圧倒的な蓄熱量と温かさを確保します。
壁と天井には、高い蓄熱性能を持つセルロースファイバーを充填し、仕上げは調湿性にも優れた漆喰で仕上げました。
画像の説明を入力してください
【実証結果】 外気温15℃の日に、室内のエアコンをあえて高めの25℃に設定し、各部の表面温度を計測しました。
天井(漆喰+セルロースファイバー):30.8℃
壁(漆喰+セルロースファイバー):30.0℃
床(杉板30mm+高性能断熱):28.8℃
結果、エアコンの設定温度を大きく上回る熱を壁・床・天井が蓄え、空間全体がじんわりと温かい、まさに「陽だまり」のような快適空間が生まれました。 これにより、スリッパが不要になっただけでなく、エアコン効率も劇的に向上したのです。
この章では、断熱性能だけでは測れない、真の快適性を生み出すための「蓄熱」と「自然素材」の科学について解説しました。
「断熱」で家の外からの影響を完全にシャットアウトし、
「蓄熱」性能の高い自然素材で、家自体が熱を蓄え、安定した温熱環境を育む。
この「守り」と「攻め」の思想を両立させることこそが、高価な床暖房設備に頼らずとも、冬は陽だまりのように暖かく、夏は木陰のように涼しい、最高の住環境を実現する唯一の道なのです。
ここまでで、最高の快適性を生み出すための科学的な「設計思想」はすべて揃いました。次の【部位別 実践編】からは、いよいよこの思想を、あなたの住まいの「かたち」に変えていく、具体的なリフォームの旅へと出発します。
ハイウィル株式会社 四代目社長
1976年生まれ 東京都出身。
【経歴】
家業(現ハイウィル)が創業大正8年の老舗瓦屋だった為、幼少よりたくさんの職人に囲まれて育つ。
中学生の頃、アルバイトで瓦の荷揚げを毎日していて祖父の職人としての生き方に感銘を受ける。 日本大学法学部法律学科法職課程を経て、大手ディベロッパーでの不動産販売営業に従事。
この時の仕事環境とスキルが人生の転機に。 TVCMでの華やかな会社イメージとは裏腹に、当たり前に灰皿や拳が飛んでくるような職場の中、東京営業本部約170名中、営業成績6期連続1位の座を譲ることなく退社。ここで営業力の基礎を徹底的に養うことになる。その後、工務店で主に木造改築に従事し、100棟以上の木造フルリフォームを大工職人として施工、管理者として管理。
2003年に独立し 耐震性能と断熱性能を現行の新築の最高水準でバリューアップさせる戸建てフルリフォームを150棟、営業、施工管理に従事。
2008年家業であるハイウィル株式会社へ業務移管後、 4代目代表取締役に就任。
250棟の木造改修の営業、施工管理に従事。
2015年旧耐震住宅の「耐震等級3」への推進、「断熱等級4」への推進を目指し、 自身の通算500棟を超える木造フルリフォーム・リノベーション経験の集大成として、性能向上に特化した日本初の木造フルリオーム&リノベーションオウンドメディア 「増改築com®」をオープン。
フルリフォーム(全面リフォーム)で最も大切なのは「断熱」と「耐震」です。性能向上を第一に考え、末永く安心して住める快適な住まいを目指しましょう。
戸建てリノベーションの専属スタッフが担当致します。
一戸建て家のリフォームに関することを
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営業マンはおりませんので、しつこい営業等も一切ございません。
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